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ドクターKの独りごと15. 「あかとんぼ」という名のとんぼはいない

「赤とんぼ」シリーズ連続してしまいましたがこれで最後です。「赤とんぼ」について調べていくと更にもう1つ驚くべきことがわかった。「あかとんぼ」という名のトンボはいないのだ。では我々が秋の日によく見る赤い色をしたトンボはなんなのか?調べてみるとトンボ科アカネ属、その中でもアキアカネという種であるらしい。また、赤ではないがオレンジ色をしたウスバキトンボ(トンボ科ウスバキトンボ属)も「あかとんぼ」と呼ばれることが多いらしい。西日本ではうすばきとんぼが多い一方で東日本はアキアカネが多いことから、三木露風が「あかとんぼ」を作詞した北海道で実際に見たあかとんぼはアキアカネで、幼少時代にみたあかとんぼはウスバキトンボである可能性が高い。

 

ウスバキトンボは世界中の熱帯・温帯地域に広く分布し、日本のほとんどの地域では、毎年春から秋にかけて飛んでいるが、冬には姿を消すようだ。お盆の頃に成虫がたくさん発生することから「精霊とんぼ」とか「盆とんぼ」などと呼ばれる。卵は数日のうちに孵化し、すぐに脱皮して幼虫となる。幼虫は急速に成長し、1か月ほどで羽化して空に飛び立つ。ウスバキトンボはまず東南アジアや中国大陸で発生し、数回の世代交代を繰り返しながら、日本を北上する。南西諸島や九州、四国では4月中旬に飛び始め、本州南部では5〜6月、中部山岳地帯や東北地方では7〜8月、そして北海道では9月と徐々に北上する。しかし寒くなると死滅してしまう。生物が生きる条件が悪くなった時、条件の良いところに移動しないでそのまま死滅する場合、死滅回遊(しめつかいゆう)あるいは無効分散という。春の終わりに大陸から日本に渡ってきたウスバキトンボの子孫は、ついには全滅してしまう。大陸から日本を目指すウスバキトンボの一族にとっては、まさに片道切符の行軍なのだ。いくつもの世代交代をしてまで彼らはなぜ北海道に来るのだろうか?どうしてこんな無謀な侵攻を繰り返しているのか。何がトンボたちを決死の旅に駆り立てるのか。すべては謎である。(稲垣 栄洋,生き物の死にざま はかない命の物語,草思社,2020)

*  *  *

「あとは若い人に任せてご勇退なさっては?」70歳を過ぎても現役で会社を切り盛りし、誰よりも働いている患者さんがいた。「みんなにそう言われるなあ。でも、まだまだよ。倒れるまで働くわ」豪快に笑いながら「じゃ、また来月たのむよ」といって診察室をでたのが最後だった。脳出血でバッタリと倒れ、急性期病院で手術をしていただき、一命は取り留めたものの全くの意識がない状態で当院に転院となった。名前を呼んでも体を揺さぶってもうんともすんとも返事はない。「全身管理をしながらリハビリを続けて、少しでも良くなるよう最善を尽くします」。転院時にはじめてお会いしたご家族にそうは話してみたものの、患者さんはその後まもなく肺炎をこじらせてあっという間に亡くなってしまった。お見送りの時御奥様から「もっと早くに仕事をやめさせていればこんなことにならなかったのでしょうか?」と聞かれた。「ご主人はご主人の生を120%生き抜いたと思います」そんなことを答えたように思う。そしてそのとき気がついた。私は彼の生き方を全く理解していなかった、と。「生涯現役」という自己実現の目標に対して私は彼にいったい何をしてあげたのだろうか?そしてあのとき、どうして本人に「いつまでも元気で働けるように体調管理をしっかりとされてください」と言えなかったのだろうか?…. 「もう引退したら?」と言ってしまったことを今でも悔やんでいる。

 

旭川リハビリテーション病院副院長