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ドクターKの独りごと18;全力疾走

以前、ドクターKの独りごと 2;「永遠」というテーマでプロ野球パリーグプレーオフ第2ステージ札幌ドームのことを書いた。勝てば北海道移転後初のパ・リーグ制覇が決まる大一番の試合である。1点も許されない緊迫した試合展開の9回裏、ソフトバンクのエース・斎藤投手が一瞬乱れた。1人目の打者、森本に四球を与えてしまったのだ。斎藤はその後の日ハム打線を抑え2アウトランナー1・2塁。迎えたバッターは稲葉。道民の誰もが息を殺してTVにかじりついたあのシーン。超満員のスタンド。「稲葉ジャンプ」でドームが震える。稲葉への第2球。バットに当たった白球は斎藤の足元を抜けセンター前へ!しかし好捕された球はセカンドへ!南無三…フォースプレイか?!ところがセカンドベースへのトスがほんのわずかにそれてセーフ!その間になんと2塁から森本が生還!!チームとしては25年ぶり、北海道にきてわずか3年で「優勝」という夢を、札幌ドームで実現したあの試合。動画配信で振り返って見ても当時の興奮がよみがえる。

 

「全力疾走って大事なんだぞ」

現日ハムゼネラルマネージャーの稲葉篤紀と息子の会話である。打った稲葉の1塁への全力疾走。1塁走者の小笠原の2塁への全力疾走。2塁からホームインした森本の全力疾走。誰か1人でも全力疾走を怠ればドラマは生まれていない。難攻不落の斎藤からもぎとった1点は「偶然の産物ではない。必然。」と当時3塁コーチボックスにいた白井ヘッドコーチは振り返る。北海道に移転した日ハムの「全力疾走」はいつしかチームの文化となる。(参照:2022年9月24日道新朝刊)

 

進行性の呼吸筋障害・嚥下障害を伴った難病に罹患し、点滴を拒否しながら必死に食事をとっていたAさん。ウイルス感冒に感染し、薬で熱を下げながらなんとかがんばって過ごした10日間。解熱して「やりとげましたね!」私の言葉にはにかみながらも笑ってくれたのに次の日の朝、突然帰らぬ人になってしまった。どうして点滴を拒んだのか?どうして私に微笑んだのか?どうして最期の顔は…あんなにも優しかったのか?入院前まで介護職員だったというAさん。いろいろ思うことがあったとしみじみ話してくれたのに。もっと話を聞きたかったのに。

「なにもしなくていい」。はたしてAさんは生きることを諦めてしまっていたのだろうか?いや、そうではない。自分の一生を泰然自若の心境で最後まで走り切ったのだ。しかもゴール手前は「全力疾走」で。

 

そういえば今日は旭川市民マラソンが開催された日であった。どの人もゴール前は全力で駆け抜けるものだ。マラソンがその人の人生の縮図のように思えるのは私だけだろうか?(敬称略)

旭川リハビリテーション病院副院長